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前未来的語り部

懐かしい現在

辛さを解かすもの

メタファーであり、フィクションである。

 

僕はカレーライスを食べに来た。どちらかと言うとインドカレーの方がレストランで食べるのは好きなのだが、たまには日本人的なカレーの味も食べてみたかったのだ。辛いのが好きで所詮日本のカレーの辛さだとどこか高をくくっていた所もあり、「激辛」で注文した。そうしたら意外に辛くて、最後まで食べることができなかった。福神漬けやコーラを間に挟みながらも、その辛さを中和しきることはできず舌が悲鳴をあげてきたので、やむを得ず残すことにしたのだ。

 

僕は敗北した。気分転換で食べたカレーライスの辛さを予想できずに、自分にとってもカレーにとってもあまり喜ばしくない結果に終わってしまったのだ。

もし「激辛」ではなく「辛口」程度でとどめておけば…。悔やまれる。

 

僕はそのあと古着屋さんに行って、春物のベストを探した。3,000円ばかりで結構生地のしっかりした控えめな茶色のベストが見つかったので購入した。その次にとても美味しそうなコーヒー豆のショップがあったので立ち寄り、店長おすすめの春らしいさわやかな香りと酸味のある豆を買った。

 

帰宅したらすぐにベストのタグに外し、玄関のハンガーにかけたあと、コーヒーを入れた。ゆっくりとしたテンポの音楽をかけながら夕方に飲むコーヒーは格別の味がした。

すると、先ほどのカレーライスに対する敗北も許せるような気がして来た。この緩やかな時間が、自分の胸にある後悔の気持ちをスライムのように形のないものへ融解してくれた。

 

よし、今度もう一度あのカレーライスを食べにいこう。そして「辛口」で注文するのだ。

時間はある。もう一度出向けばいいのだ。自分の食べられる辛さで。

 

窓から入ってくる風が肌を優しく撫でるのを楽しみながら、僕は残ったコーヒーを最後まで飲んだ。