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前未来的語り部

懐かしい現在

音楽とハンチング

「もう降参だよ」

「分かった、じゃあ1枚よこせ」

こんなルールは不公平だと分かっていながら、僕は彼に圧勝し少しばかり金を儲けた。

卑怯だと言われようとなんだろうと勝てばいい。そういう競争的原理の元に身を置いている。

人はそれを無慈悲だとか非人情だとか、卑近な語彙で言えば「クズ」と呼ぶ。だが、それは、負け犬の遠吠えというもの。

ルールを熟知し、それを魅力的に運用できたものが報酬という名の果実を得る。

だが、僕の心の中にも人情という恥部が存在している。現実、いや、僕を覆う腐敗したガスは息をするだけでどうしても肺の中に取り込まれ、恥部に刺激を与える。

そういった現実の馬鹿な空気に対する防護服とでも言うべきもの。それは音楽とハンチング。

 

音楽と、ハンチング。

 

僕はこれらによりガスから守られた。

近所のファーストフード店は、そのガスにまみれて、小綺麗なオープンカフェのような改装を施した。駅前の個人経営の本屋は継承者の不在によりなくなってしまったが、そのあとにできたのはどうでもいい匿名的なファミリーレストラン。そしてとてつもなく気持ちの悪い平均的でのっぺりとした作風の複合商業施設。

 

あらゆるものがガスに侵されていく。

 

時代の変化?治安の維持?大衆の欲望の趨勢?

 

じゃあそれがすべて間違った方向に向いているのだとしたら?

 

正しい方向に導いてくれるもの。

音楽と、ハンチング。