counter

前未来的語り部

懐かしい現在

ポラリスと流れ星

 夜空を見上げるとき、彼はまずポラリスを探すことにしている。僕たちは常々自分の行き先を見失い、またそもそも行き先を探している自身の細胞も三ヶ月ごとに入れ替わってしまう。だが、その星は不変の灯台として僕たち一人一人の真上に堂々と光り輝いていてくれる。目指すべき未来でもあり、戻るべき家でもある。それがあることによって方角を見失わずに歩き続けることができるし、多少脇道に逸れてもまた元の道筋に戻ることができる。旅人にとっての絶対的指針。

 それを習慣的に見上げていると、不意に星が流れることがある。旅の苦労を労うように、あるいは途中にあるメルクマール的中間地点に達したことへのささやかなサプライズのように。そういう時、彼はひとまず星を掴むことにしている。それらの魅惑的な姿を垣間見せる星たちは、見過ごされるよりむしろ彼に見つかってつかんでもらえることを望んでいるように思える。そういったほのめかしをしてくれた星の頭を優しく撫でるように、彼は肩の力を抜いて夜空に手を伸ばし星をキャッチする。何度か繰り返すと、一連の動作は熟練の職人のようにシームレスに行われるようになった。
 時にポラリスから遠く離れた場所に流れる星を見ることもある。その星は出発点からそれに向かっているのだろうか、それとも遠ざかっているのだろうか。流れ始めた場所は実は大きな問題ではないのかもしれない。問題となるのは、それがどちらに向かおうとしているかについてなのだ。もし遠ざかっているのならば、その星を掴みに走り出しては危険だ。いつの間にか広大な砂漠の上で、あるいは鬱蒼と植物の茂る森の中で、またある時は暗闇に包まれた夜の海において絶対的な指針を見失うことにもなってしまう。迷い星に要注意。
 それを眺めていれば必ず星は降る。だが、それを目指すことを止めて空を見上げることがなくなれば流れる星を見落とし、宛もなく空を眺めているだけではきっと僕らは流れ星を求めてしまう。なぜか流れ星は求めている時に姿を隠す。何か宇宙と人間との間に大きな関係性が、あるいは些細な身振り手振りによる微妙なメッセージの往還がそこには存在するのだろうか。はっきりとはわからない。しかし、実際に旅人たちはそのように証言することが多い。
 何はともあれ、旅人の夜空は旅をすることによってでしか見られるものではない。
John Coltrane Quartet『Ballads』